橈骨遠位端骨折術後の回内・回外制限に対するSauvé-Kapandji法|手外科医が実際の症例から解説
こんにちは!!Dr.manaoです。
今回は、フリーランス整形外科医として勤務していた際に経験した、橈骨遠位端骨折術後の遠位橈尺関節(DRUJ)障害について書いてみたいと思います。
テーマは、
「橈骨遠位端骨折の手術後、前腕の回内・回外がほとんどできなくなってしまった患者さん」
です。
そして、その患者さんに対して行った**Sauvé-Kapandji法(SK法)**について、実際の経験を交えながら解説してみます。
橈骨遠位端骨折の手術から半年。それでも手が回らない……
患者さんは、他院で橈骨遠位端骨折の手術を受けていました。
術後約半年が経過していましたが、手関節周囲の可動域制限が強く、なかでも大きな問題となっていたのが、
前腕の「回内・回外」がほとんどできないこと
でした。
「回内・回外」とは、簡単にいえば前腕をひねる動きです。
手のひらを下に向ける動きが回内、上に向ける動きが回外です。
この動きが制限されると、日常生活にもかなり大きな支障が出ます。
例えば、
- 顔を洗う
- ドアノブを回す
- お椀やコップを持つ
- 手のひらを上に向けて物を受け取る
といった、普段何気なく行っている動作が難しくなってしまいます。
回内・回外には「橈尺関節」が重要
前腕の回内・回外運動には、
近位橈尺関節(PRUJ:proximal radioulnar joint)
そして、
遠位橈尺関節(DRUJ:distal radioulnar joint)
が関与しています。
つまり、回内・回外が著しく制限されている場合には、これらの関節や橈骨・尺骨のアライメント、軟部組織などに問題がないかを考える必要があります。
今回の患者さんは橈骨遠位端骨折の術後。
そのため、まず疑ったのが遠位橈尺関節(DRUJ)の問題でした。
まずは正常な橈骨遠位端骨折術後のレントゲン
まず、一般的な橈骨遠位端骨折術後のレントゲンを見てみます。
橈骨遠位端骨折に対して、掌側ロッキングプレートを設置し、スクリューで骨折部を固定しています。
現在では非常に一般的に行われている手術方法ですね。
では、今回の患者さんのレントゲンを見てみましょう。
回内・回外が困難だった患者さんのレントゲン
違いが分かるでしょうか?
今回の症例では橈骨の矯正が十分ではなく、橈骨の短縮に伴って**尺骨が相対的に長くなった状態(ulnar positive variance)**となっています。
このような橈骨遠位端骨折後の変形治癒では、手関節だけでなくDRUJの適合性や荷重伝達にも影響を及ぼし、疼痛や前腕回旋制限の原因になることがあります。
さらにCTで詳しく評価すると、この患者さんでは尺骨頭がDRUJに対して背側へ亜脱臼している状態が確認できました。
つまり、
橈骨遠位端骨折後の変形 → DRUJの適合性が破綻 → 前腕の回内・回外が著しく制限
という状態になっていると考えました。
遠位橈尺関節障害に対するSauvé-Kapandji法(SK法)
このようなDRUJ障害に対する手術方法の一つが、
Sauvé-Kapandji法(ソーベ・カパンジ法:SK法)
です。
SK法は簡単にいうと、
遠位橈尺関節を固定(関節固定)し、そのすぐ近位の尺骨に意図的な偽関節部を作る手術
です。
「関節を固定したら、回内・回外できなくなるのでは?」
と思うかもしれません。
ここがこの手術の面白いところです。
DRUJ自体は固定しますが、その近位に尺骨の偽関節部を作ることで、その部分で前腕の回旋を可能にします。
また、尺骨頭を温存できることもSK法の特徴です。
SK法は現在でも使われている?
SK法は歴史のある術式ですが、現在でもDRUJ障害に対するsalvage procedure(救済手術)の選択肢の一つです。
ただし、
「DRUJ障害=SK法」
というわけではありません。
橈骨遠位端骨折後の変形であれば、変形の程度やDRUJの関節症、軟部組織の状態、患者さんの年齢や活動性などを評価し、
- 橈骨矯正骨切り術
- Darrach法
- hemiresection-interposition arthroplasty
- Sauvé-Kapandji法
- その他のDRUJ再建術
などから適切な方法を検討します。
患者さんの病態を正確に把握して術式を選択することが重要です。
私が考えるSauvé-Kapandji法の手術のポイント
ここからは、実際に手術を行う立場から、私自身が大切だと考えているポイントを書いてみます。
① 皮切と展開
まず重要なのが皮切です。
私はDRUJと尺骨骨切り部の両方を十分に展開できるように、DRUJやや遠位から尺骨背側を通り、骨切り部近位まで弧状の皮切を置いています。
手術では「十分な視野を確保すること」が非常に重要だと考えています。
② 固有小指伸筋腱と尺骨神経背側皮枝を意識する
展開時には、
固有小指伸筋腱(EDM)
そして、
尺骨神経背側皮枝
の存在をしっかり意識します。
特に尺骨神経背側皮枝は損傷しないよう、確認・保護しながら展開することが重要です。
③ 尺骨骨切り部を十分に展開する
偽関節を形成する尺骨骨切り部を十分に展開します。
SK法ではこの部位が術後の回旋に関わってくるため、骨切り位置や骨切り量についても十分に検討する必要があります。
④ DRUJの関節固定部をしっかり形成する
DRUJを展開したら、橈骨側・尺骨側ともに関節軟骨を処理し、海綿骨を露出させます。
そして、橈骨と尺骨の骨性接触が十分得られるように形成することが重要です。
DRUJの確実な骨癒合を目指す一方で、近位に作成した偽関節部では回旋を確保する。
この相反する2つを成立させるのがSK法のポイントだと思います。
術中に回内・回外を確認
骨切り・固定後には、実際に前腕を回旋させて可動域を確認します。
今回の症例では、術前には著しく制限されていた回内・回外が、術中には大きく改善し、十分な回旋可動域を確認することができました。
手術をしていて、この瞬間はやはりうれしいですね(^^)
術後レントゲン
遠位橈尺関節を固定し、その近位の尺骨に偽関節部を作成しています。
DRUJの固定にはスクリューを使用します。
使用するインプラントや固定方法にはいくつかの選択肢があり、症例や術者によって方法は異なります。
Sauvé-Kapandji法の注意点・合併症
SK法は有用な術式ですが、もちろん万能ではありません。
代表的な問題として、
- DRUJ固定部の偽関節・遷延癒合
- 作成した偽関節部の再癒合
- 近位尺骨断端の不安定性
- radioulnar impingement
- 疼痛
- インプラント関連の問題
などがあります。
特に近位尺骨断端の不安定性はSK法を考えるうえで重要なポイントです。
そのため、骨切り位置・骨切り量だけでなく、必要に応じてECUなどを利用した軟部組織による安定化も検討されます。
「手術自体はそれほど難しくない」というよりも、
手技そのものは比較的シンプルに見えても、良好な成績を得るには細かな工夫が重要な手術
という表現が適切かもしれません。
SK法の術後リハビリについて
術後の固定期間や回内・回外訓練の開始時期については、術式、固定性、骨質、軟部組織処置などによって異なります。
私の場合は、症例に応じて調整しますが、一例として、
術後約2週間:シーネ固定。手指運動は許可
その後:手関節掌屈・背屈のROM訓練を開始
術後3週前後〜:状態を確認しながら回内・回外訓練を開始
としています。
ただし、これはあくまで私が行っている方法の一例です。
SK法の術後リハビリにはさまざまなプロトコルがあり、DRUJ固定部の骨癒合や尺骨断端の安定性などを確認しながら進めることが重要です。
橈骨遠位端骨折は「骨がつけば終わり」ではない
橈骨遠位端骨折は、整形外科では非常によく遭遇する骨折です。
しかし、単に骨癒合すれば治療終了というわけではありません。
橈骨の長さ・傾き・関節面の整復、そしてDRUJとの関係まで含めて評価することが重要です。
わずかなアライメントの変化が、手関節機能や前腕の回内・回外に大きな影響を与えることがあります。
特に手は日常生活で非常に細かな動きを要求される部位です。
だからこそ、
「レントゲン上で骨がついた」だけではなく、「患者さんが実際にその手を使えるか」
という視点を忘れないようにしたいと思っています。
整形外科医として、これからも研鑽を
今回は、橈骨遠位端骨折術後のDRUJ障害に対して行ったSauvé-Kapandji法について書いてみました。
私自身、手外科を専門として診療してきましたが、整形外科は本当に奥が深い分野です。
一つ一つの症例から学ぶことがあります。
これからも整形外科医としての研鑽を忘れず、日々いろいろなことに挑戦していきたいと思います。
そして今年は……
娘と一緒に英検にも挑戦!!
目標は、
【英検準1級!!】
医者としての勉強だけでなく、自分自身の新しい挑戦も続けていきます。
また奮闘記を載せますね(‘ω’)ノ
Dr.manao
※本記事は、整形外科・手外科領域について一般的な医学情報および筆者の臨床経験を紹介することを目的としています。個々の患者さんの診断・治療方針は、症状、画像所見、年齢、活動性などによって異なります。